各方面、なんだかデジタルじゃないとモノ作れませんよ、くらいな勢いでプッシュされてるシーンをよく見かけます。
そりゃ超便利ですし、今後の革新みたいなトコも期待できますし、その魅力を否定するものではありません。
ですが、どんなに夢あふれていても、数ある造形手法のひとつにすぎないのも事実です。
ブームのはるか以前から3Dプリントサービスやってる身で言うのもなんですけど、造形スキルのパラメータをデジタルに全振りするのは得策とは言えないかもですよ?
実際、弊社でも各種商用原型製作にあたって全部が全部3Dプリンタでやってるわけではありません。
だって別の手法を使った方が安かったり早かったり簡単だったりする場面なんていくらでもありますからね。
手法なんて目的や条件に応じて、適材適所なノリで臨機応変にチョイスできた方が幸せだと思うのです。
そんな立ち位置からブームに逆らう形でロックにご紹介させていただきますのが 今回の商品、カグラワックス PROです。
いわゆるワックスという材料、造形の世界ではとんでもなく長い歴史を誇っておりまして、日本でも奈良時代にはすでに仏像や香炉、文鎮などの原型用として使われていました。
それからざっと1300年、造形に携わってきた先達は代々改良を重ね続け、その遺伝子は21世紀の今も各工房に脈々と引き継がれているのです。大げさに言うと。
それがワックスなのです。
何故かと問われれば理由は簡単、これを使った方が合理的なシーンがたくさんあるから。
プロは生活がかかっていますからそのへんとってもシビアで、慣れとかノスタルジックな気分とかは継続使用の理由にはなりません。
製作現場における必然の材料として、それぞれの工房では今なお独自調合のオリジナルワックスが使われ続けています。
もちろん弊社でもワックスを有用なマテリアルとして、目的に合わせてアップデートし続けてきました。
が、正直職人向けといいますか、製作対象に細かく特化したピーキーなものが多く、これらを使いこなすにはそれなりな技量を要すると言わざるを得ません。
これを受けて粘土感覚で気軽に使えるワックスとして開発したカグラワックスも発売から5年。
これまでに頂いた多くのご意見をもとに今回、使いやすさに磨きをかけ、プロが仕事で使える性能をも兼ね備えて新たに生まれ変わりました。
同じロウでもロウソク的なものをイメージしていたら驚くほどに別ものです。
引っ張れば伸びますし、クレイガンやシリンジを使って細く押し出したり、編んだりすることもできます。
そして冷えればカチカチに。温めればまた柔らかくなりますから何度でも粘土感覚で容易に形状修正が可能です。
より強固に合体させるには、アルコールランプで熱したスパチュラやワックスペンなどを使いましょう。
これはもう接着ではなく溶着ですので完全に一体化します。
指でくっつける。
ワックスペンで溶接。
刃の通りが良く力要らず、適度なコシも備えていますのでスムーズなナイフワークが可能です。
なお、モーターツールをご使用の際は、ワックス加工用の先端工具をお勧めします。詰まりませんので。
ベンジンをしみ込ませた布などで軽く撫でればツルツルというお手軽さ。
温風で表面を軽く溶かして均してしまうなど、ワックス造形ならではの技法が使えます。
何より、ほとんどの造形材料の磨き時に悩まされる微細粉とはすっかり無縁というメリットは巨大です。
大雑把にこねて、チゼルやワックス用ヤスリで整えたもの。
ベンジンを染み込ませたキムワイプで磨いたもの。
さらにコテライザーなどで軽く温風を当てると、簡単にツヤツヤになります。
ガーゼやティッシュなどを芯材にすれば強度もアップして、さらなる薄さを追求できます。
クレイワックスは薄物造形に弱いという常識を根こそぎひっくり返す性能です。
厚さ、たった1mm(芯材不使用)でこの強さ
液状ワックスにキムワイプ を浸して型紙状に切り出し、熱したスパチュラで縫うように溶着したら熱風を当ててひねったり、シワをつくる。
1mm程の太さの小指も形にできてしまう強さを持っています。
手造形でこの指より細いものをこねるケースは少ないでしょうから、現実的に十分な強度を持つと言い切ってよいかと。
今回は手の作り方の一例です。
— デジモデ【神楽坂ツールズ】 (@digi_mode) May 22, 2020
「温めると粘土になるロウ」という性質を上手く使って楽しんでください。 pic.twitter.com/IDKw3VHgam
リアルな質感表現や、手で彫る気が失せるようなネタの場合はこの技法で安楽に乗り切りましょう。
失敗してもベンジンで撫でるなどすれば元通りですのでリカバリーは容易です。
溶けたワックスは当然注型もできますから、よく使う基本形状の型を用意しておいて随時複製して用いるのも便利です。
長く使われているだけあって応用範囲も広く、レジンはもちろんロストワックスでの金属置換、スラッシュ成形金型の原型にも使えます。
柔らかいモードと硬いモードがあるのはパテやファンドと一緒ですが、その2つの状態を形を保ったまま何度でも、しかも待ち時間なく素早く行ったり来たりできるところが決定的な違いです。
固まってしまったら二度と柔らかくならない不可逆性の材料と比べれば、その自由度の高さは大きなアドバンテージです。
また、単純に値段をみると高いようにも思えますが、他材料への置換が終わったら溶かして何度も使えますので、実はコストパフォーマンスも断然高いのです。
デジタルと違ってアンドゥが効かないという手造形の大弱点についても、ことワックス造形に関しては結構なレベルで容易くリカバリーできてしまいますので、デジタル造形派の皆さんにもご満足いただけると言ったら言い過ぎでしょうか。言い過ぎでしょうね。
最初はパサつく感じのワックスも練っているうちに温度が下がり、いい感じの粘土感が出てきます。
その粘土感があるうちに大まかな形を出し、その上に小さく練ったワックスを盛り付けていくというのが基本的な使い方です。
熱で造形するワックスは適切な温度管理が重要です。
温風でも湯煎でも柔らかくすることはできるのですが、より良い使用感覚のためにヨーグルトメーカーのご使用を全力で推させていただきます。
中でもおすすめはこちらの、山善さんの「発酵美人」YXA-100。
余裕のある庫内容量と高めの加熱性能が魅力です。
ワックス造形の必需品と言っても過言ではありません。
むしろ固まるのを遅らせたいくらいですのでそれほど工夫は要りません。
水をはったボウルにでも浸していただければあっという間に固まります。
特性 | |
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完全に液化する温度 | 68℃ |
捏ねるのに適した温度 | 45~50℃ |
長さ60mm、直径8mmの棒の中点に2,210g/cm2の荷重をかけた状態(室温21℃時)
クレイタイプのワックスとしては破格の硬度を持つため、ほとんどしなることなくパキッと折れます。 多少の弾力を与えられたポリパテ、と言えるほどの強度です。(ロウですので硬いもので表面を引っ掻けば傷は付きます。) |
カグラワックス PRO フレーク
¥800 ~ ¥5,000
より使いやすくなったフレークタイプ。
スカルプトテーブル1号
¥47,400
卓上サイズでもずっしり重い本格派。
高級造形板 白磁ボード
¥3,980
熱にも傷にも薬品にも強い、高品質な造形板をお探しの方に。
細部専用 タマチュラ 5本セット
¥2,980
均す・圧す・抉る、クレイワークの基本をこなす小さな指先。
歯科臨床用スパチュラ
¥800
歯科技工用じゃなくて歯科臨床用。
細工刀 SOH 10本セット
¥8,190
伝説の凄腕根付師、森田藻己の名を戴く「彫る」ための道具。