道具なんてものは使いようです。
が、世界はデザインナイフさんに彫刻方面の期待と
責任を負わせすぎなのでは。

だってあれ、生い立ち的には薄い紙関係を切る方面のスペシャリストですからね。
「切る」と「彫る」は別もんですよ、加工手法として。
というわけで一発イイ感じの彫刻刀でも買おうかな、なんて思うとあれ？
意外と見当たらないんですよ。特に細かい彫りに向いてそーなやつ。
アマゾンとか楽天とかでリコメンドされるのは9割がた小学校の図工で使ってたアレの仲間なんですよね。いかにも版画彫りまっしょいみたいの。

今回はそんな彫刻刀不足の実情を鑑みまして「彫る」ための専用品、それも微細彫りを主目的として開発されたツールをご用意いたしましたという流れです。
さあ、デザインナイフ様の万能性に敬意を表しつつご紹介いたしますアイテムはこちらっ！

伝説の凄腕根付師、森田藻己の名を戴く「彫る」ための道具。

ミニチュア大好き民族が生んだ精密実用彫刻、
根付をご存知ですか。

日本人ってやつはご先祖様代々、小さくて精密なものが大好きです。
ミニチュア好きのDNAは現代でも携帯ストラップや食玩などに確認することができますが、これに該当する江戸時代の代表的なプロダクトが根付です。

根付は3～4cm程度の小さい彫刻で、印籠や煙草入れ、巾着などを帯に留めるための実用アクセサリーでした。
極めて緻密な彫りが施されているものが多く、美術工芸品としての評価も（特に海外では）非常に高いアイテムなのですが、ご先祖の方々は実用品としてかなり気軽に使い倒していらっしゃったのでしょう。
あまりにも身近なアイテムだったもんですから貴重品扱いされず、出回っていた数に対して現存数が非常に少ないのが残念なところです。

まずはそんな中でも現代に残った貴重な根付の名作、

明治の巨匠・森田藻己（そうこ）の作品を
ご覧いただきましょう。

森田藻己「按摩」

森田藻己「向島みやげ」

藻己先生の作品は、時代的に洋装化が進んで
根付の需要が下がる中で作られています。

それだけに高付加価値を目指して細密彫刻を追求しまくるスタンスですから、彫りに気合いが入り放題です。
炭籠のモデルなんか幅33mmですからねこれ。
そして現代の食玩と決定的に違うのは、こういった作品、ぜーんぶワンオフで 一点一点彫刻して作られていたという事実です。

いったいナニ使って彫ってたんだ。

こんなお仕事を見ちゃうと必然的に江戸の先輩方の道具が気になってくる訳です。
いわゆる図工な彫刻刀でどうにかできそーな気がしないじゃないですか。
調べてみますと、地域や流派によって違いはありますが、概ねこんな感じの道具をお使いだったと伝わっております。

「面出し」おおまかな外形を出す

	細工鋸 アサリがないので断面が傷付きません。		追入鑿 普通のノミより薄手です。
	切出 小刀ともいいます。

「粗彫り」抉れた部位を彫りこむ

	繰刀 スクイ、ナギ、剣先などの種類があります。		生反り 湾曲部の彫りに使います。
	匙鑿 奥まった部分を彫ります。

「本彫り」細かい形状出しと均し彫り

キワ刀 印刀ともいいます。

サラエ 彫り痕の凹凸を均します。奥まったところ用の底サラエもあります。

時代が時代です。こういった道具もそれぞれの工房が鍛冶屋さんに特注したり、根付師自身が製作していました。
藻己先生に至っては、200本以上のオリジナル刀をお使いだったとのことです。
が、さすがに200本セットなんか作っても確実に売れないと思いますので、当店ではキリ良く10本セットをご用意いたしました。
これだけ揃っていれば一般的な微細彫りには十分対応できるはずです。

当商品だけでアレが彫れるか試してみましょう。

とはいえ、道具なんてものは実践的に使ってみなけりゃ真価はわかりません。
不遜の極みかつムボーではございますが、この細工刀だけで藻己先生のアレっぽいものを彫ってみたいと思います。

ただし先生の作品は伝統的な細工用材であるツゲを彫ったものです。
こいつは私の未熟な彫刻技術では手に負えない材ですので、今回はラクにワックスを彫らせていただきましょうね、あしからず。

さ、販促資料とはいえ商品の実力を示す大事な試用サンプルです。
気合い入れていってみましょう！

「面出し」

ここまでは切出し刀的なデザインナイフでも問題ないと思います。

「粗彫り」

こういった深溝や抉れを彫り出す段になると彫刻刀の独壇場です。

「本彫り」

修行めいた幅2mmに満たない文字とか紐目も彫り込めました。

オリジナルよかちょっと大きくなっちゃいましたが（36mm）ぱっと見、それっぽく彫れてますよね？ね？
腕の差に起因する諸々は当然ご勘弁いただくとしてこの細工刀、その辺を差し引いて考えても微細彫りのポテンシャルが高いことは確認できました。

もちろん硬い物も、この通り。

デザインナイフでの細かい彫刻に行き詰まりを感じていた方に、ドスンとおすすめいたします。